参加者の満足度を上げるワークショップを実施するためのテクニック

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近年、デザイン思考を実践する上で、ワークショップを実施するデザイナーが増えています。皆さんはそもそもワークショップとは何かを考えたことはありますか?本記事ではワークショップを実践する上で、知っておくべき基礎知識を解説します。

ワークショップとは何か

ワークショップは英語のWorkshopで、「工房」「仕事場」を意味します。そこから派生して、現在、私たちはワークショップを「一緒に何かを作る場」として認識していると考えられます。

学術的なワークショップの定義では中野民夫氏の定義が広く使われています。

「ワークショップ」とは、講義など一方的な知識伝達スタイルではなく、参加者が自ら「参加」・「体験」し、グループの「相互作用」のなかで何かを学びあったり創り出したりする、双方向的な「学び」と「創造」のスタイル

中野民夫著 「ワークショップ―新しい学びと創造の場」(2001年、岩波新書)

中野氏は、ワークショップは参加・体験を通じて相互作用のなかで学び合い、創造し合うスタイルとされています。実はこの体験を通じて学ぶ考え方は、教育現場で昔から提唱されてきました。例えば、アメリカの哲学者ジョン・デューイ氏は理想的な教育のあり方として、「Learning by Doing」を提唱し、多くの教育者はこの考え方に共感し、実践しています。

Learning by Doing

ジョン・デューイ

Learning by Doingは日本語だと、「経験学習」や「体験学習」と訳されます。筆者はワークショップの定義として Leaning by Doingの実践の場だと考えています。

また中野氏はワークショップを「個人/社会」「創る/学ぶ」の2軸に分け、4つのセグメントに各ワークショップを振り分けました。

  • 個人の内面を表現する(自己表現)
  • 社会を変革する(問題解決・合意形成)
  • 個人の内面を深める(自己変容)
  • 社会や自然を体験し学ぶ(体験学習)

筆者が普段の仕事に実施するデザイン思考や新規事業開発のワークショップはワークショップ全体から考えると、非常にニッチな領域で、ワークショップがいかに社会全体で広まっていることを表しています。

ワークショップが活用される背景

カスケード型社会からネットワーク社会への移行

カスケード型社会とはトップダウン型社会とも言われ、上意下達のコミュニケーション方式を採用する社会です。情報や権力を独占する一部の少数の人が、必要に応じて下位の者に情報や指示を流したり、抑圧や統制をする社会を言います。

一方、ネットワーク型社会とはクモの巣のようにすべてが相互につながり合い、連鎖して、良い意味でも悪い意味でも双方向で瞬時に影響しあう社会を言います。世界は今、インターネットの普及やグローバル化により、ネットワーク型の社会に急速に移行しています。そしてネットワーク型社会になると、これまで以上に多様性への尊重が求められ、「自分の当たり前が他者の当たり前とは違う」ことを自認し、行動することが求められます。

ワークショップは自分とは違う当たり前を持つ他者と対話する

ワークショップの原則は、他者は自分とは違う当たり前を持っていることを理解することです。

当たり前が違うなかで、対立を少なくするためには、自分が考えていることをはっきり言うことも必要になります。

お互いが納得することで共感を得られることの安心や幸福といったポジティブな感覚を持ちます。このように多元社会で生きるために納得するまで対話できるのがワークショップです。いわば、「みんな違って、みんないい。と思えるか?」を自分に問う場となります。

ワークショップの効果を上げるには

ワークショップはさまざまな因子によって構成されますが、白水氏、三宅氏が発表した「協調による概念変化モデル」をベースにすることで効果を発揮すると考えられます。

白水始,三宅なほみ「認知科学的視点に基づく認知科学教育カリキュラム-「スキーマ」の学習を例に-」

自分が考えた仮説は、一人では修正・変更し難いが、協調的に持ち寄れば、各自の既有知識や先行経験の違いに応じて多様な仮説が共有できる。

協調場面では互いの仮説を外化することが自然に要請され、かつ、その仮説が即座には了解し難いことによって客観的な視野からの吟味(内省)が互いになされ易い。この外化と吟味の役割 を交替することにより、他人の意見や仮説も統合 した抽象度の高い説明モデルが形成される。

白水始,三宅なほみ「認知科学的視点に基づく認知科学教育カリキュラム-「スキーマ」の学習を例に-」
 『認知科学』第16巻第 3 号,2009年,pp.348-350.

つまり協調の場としてワークショップを開き、そのなかで参加者が仮説を言葉にし、それを議論、改善することで、質が高いアイデアが創出されるということです。

ワークショップに組み込まれている4つの特長

それではなぜ、ワークショップが協調の場として優れているのでしょうか?

ワークショップには「協調性」「試行性」「身体性」「主体性」の4つが組み込まれているからです。

協調性

人間は社会的な動物であり、協調は生活のいたるところに存在しています。ワークショップは、グループワークを通して参加者の協調を促すことに秀でています。

試行性

頭だけ考えるだけでなく、実際に手を動かし繰り返し試行することができます。また、ワークショップでは失敗したり成功したりする体験を重視しています。ただし、ただ体験すればいいのではなく、①体験する、②振り返る、③考察する、④まとめる、という循環したプロセスを経なければいけません。

身体性

ワークショップでは机上だけで考えるわけではありません。時には現地調査(フィールドリサーチ)に出かけてシャドーイング*1を行ったり、アイデアをアクティングアウト*2することで、他者に伝えたりします。

*1 シャドーイング

自分の存在を隠し、影のような存在になって、周囲や環境に意識されずに、ターゲットユーザの行動や発言を観察すること。サービスデザインで利用するエスノグラフィー調査手法のひとつ

*2 アクティングアウト

行動化ともいいます。元々は心理学用語として用いられ、自分自身が態度や葛藤などを言葉ではなく、行動によって表現することを指します。デザイン評価手法として用いられる場合は、初期アイデアを利用する環境や状況を疑似的に再現した上で、アイデアを実際に体験してみることで、アイデアを検証できたり、課題を見つけ出すことをいいます。

主体性

「参加者」はただ受身的に話を聞くだけでなく、自ら主体的にプログラムに参加していく積極的な姿勢が不可欠です。人から教えられたり、指示されたことは、「なるほど!」と思っても身になりにくいことは皆さん実感としてあるのではないでしょうか?「自分がそのアイデアを考えた!」「自分がそのアイデアやプロジェクトの重要な役割を担っている!」など、責任もって長期的に関わりたいという気持ちが自然に出てくることがワークショップにおいて大切です。

ワークショップが目指す姿とは

正しい答えだけではなく、自分が納得した答えに意味があります。参加者に主体性を失わせないことが、ワークショップにとって大切だといえます。

ワークショップではお互いから学びあうことで、シナジー効果(単純な総和を超えた相乗効果)やグループダイナミクス(集団ならではの盛り上がり)を最大化させ、新たなアイデアを創出することを目指しています。副次的に参加者同士が体験を共にしたり、合意形成に必要な協働作業を喧々諤々やりながら意見をすり合わせたりすることで、自分とは違う他者と学び合うことができれば、ワークショップは共創活動として価値ある場になります。

creativeog[クリオグ]ではワークショップに関する記事を多数執筆しています。関連記事もぜひご覧ください。

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