従業員エンゲージメントが低い企業は、離職率が高い一方、優秀な人材が集まらないため、生産性が低く、事業収益が低下しやすいとされています。本記事では、従業員エンゲージメントを高めるために直ちに企業が取り組むべきことを解説します。
なお、本記事はエリック・パーカー著の「残酷すぎる成功体験」から文章を一部引用しています。詳細は書籍を購入してお読みください。

エンゲージメントが低いとはどういうこと?
(1)労働生産性が低い
労働生産性とは、投入した労働量に対してどのくらいの生産量が得られたかを表す指標のことです。エンゲージメントが低い従業員が多いと時間当たりの労働による成果が少なくなるため、労働生産性は低くなります。労働生産性が低いと収益が悪化するため、雇用環境が悪化し、人材流出など負のスパイラルに陥りやすくなります。
生産性についてはこちらの記事に詳細が書かれています。
(2)会社のことがわからない、知らない、知りたくない
エンゲージメントが低い従業員は会社が発信する情報に関心が無く、情報を主体的に入手しようとしません。会社の経営方針や事業ビジョンが従業員に浸透しないたため、企業活動が停滞し、企業価値が下がってしまいます。これまでの各社事例を分析すると、エンゲージメントが高い企業だと会社が発信する情報に対して約40%以上が情報を取得してリアクションするのに対し、エンゲージメントが低い企業は情報取得する従業員は5%未満で、ほとんどがリアクションしないという傾向があります。このようにエンゲージメントの違いで情報取得に8倍もの差が出てしまうのは見過ごせない事態です。
(3)離職者の増加と採用活動の難化
企業マネジメントでは、上位2割の従業員が全体の8割の収益を生み出すという「パレードの法則」が有名ですが、エンゲージメントが低い企業は、上位2割の優秀な従業員から次々に離職していきます。そして、採用活動をしても優秀な人材が集まりません。企業運営を支えるのは従業員であり、従業員がいないと事業維持ができないため、企業にとって死活問題です。
パレードの法則については、こちらの記事をご覧ください。
従業員エンゲージメントを高めるためには?
従業員エンゲージメントが低い企業が直ちに取り組むべきことは大きく4つの視点に区分されます。
- 情報開示とデジタル化の視点
- マインドセットの視点
- 業務の視点
- 企業文化の視点
本章では、4つの視点で取り組むべきことを紹介します。
(1)「情報を持っている人が偉い」という風潮をデジタル改革で変える
トヨタ自動車の豊田章男社長は2021年の入社式あいさつにおいて、社長就任後に入社した2万2千人のうち、約1割の従業員がすでに離職していることに触れ、次のように述べました。
今のトヨタには、「情報を持っている人が偉い」という風潮があり、「情報が共有されず、一部の人だけのものになっている」という実態があります。(中略)必要な人が、必要な時に、必要な情報を入手できるようにし、みんなが同じ方向を向いて、仕事に打ち込める環境をつくりたいと思っております。
「静観ではなく、行動を」 豊田社長が入社式で伝えたこと|トヨタイムズ
トヨタはいま、「情報を持っている人が偉い」という風潮を壊そうとしています。また、多くの大企業も同様の悩みを抱えています。必要な情報を必要なときに入手できるようにするには、社内情報の統合と一元管理が重要です。
分散する情報をひとつに集約する
ポータルサイトと呼ばれる情報サイトを組織内に立ち上げ、全情報を集約させましょう。代表例は英国政府の情報サイトGOV.UKです。英国政府は約1700の政府関連ウェブサイトを2011年から2012年にかけて閉鎖し、すべてのオンラインサービスをGOV.UKに集約しました。これによりデジタルサービスが劇的に改善したのです。このように社内に分散する情報をひとつに集約するデジタル改革に取り組みましょう。
分散した情報を横断して検索できるウェブサイトを作る
情報をひとつに集約することは簡単ではありません。そのため、クローラと呼ばれるウェブ上の文書や画像などを周期的に取得し、自動的にデータベース化するプログラムを構築し、検索エンジンを備えたウェブサイトを作ることも選択肢のひとつです。クローラーがあれば、従業員が必要なときに、必要な情報を取得することができます。
社内SNSで情報を拡散する
近年、社内SNSを導入する企業が増えています。エンゲージメントが低い従業員は会社から発信された情報には無関心ですが、同僚や友人が発する情報は確認する傾向が見られます。社内SNSは従業員同士が関心ごとをいいね!やシェアすることで、周囲に拡散させることができるため、エンゲージメントが低い従業員に対しても、同僚を介して情報を届けることができるのです。また先述したデジタル改革は開発などの設備投資が必要ですが、社内SNSはサービス導入(サブスクリプション)なので、気軽に始めることができます。
(2)従業員のマインドセットを変える
マインドセットは考え方や物事の見方の癖のようなもので、経験や教育、思い込みによって形成される思考パターンです。マインドセットは信念や心構え、価値観、判断基準にも影響を与えます。マインドセットを変えることで従業員の意識や行動を変えてエンゲージメントを高めることができます。ここからは特に重要な2つのマインドセットについて解説します。
セルフコンパッションを高める
セルフコンパッションとは「自分への思いやり」のことを指します。自分への思いやりを持てば、失敗しても落ち込む必要が無くなり、成功の妄想を追い求める必要がありません。現実を受け入れ、ありのままの姿で取り組み、うまくいかなくても自分を許すことに心を注げばいいのです。セルフコンパッションは従業員に問題を直視させ、解決策を実行させる原動力になります。つまりエンゲージメントが低い理由について従業員が自ら問い、エンゲージメントを上げる行動を取らせるのです。この時、セルフコンパッションは、自分に寛容な条件設定で問題に取り組めるため、結果に落ち込むことはないし、問題に対して積極的に向かうことができます。セルフコンパッションは自分を責めないため、失敗をそれほど恐れず、やり抜く力や忍耐力を高めることができます。
調整力(アラインメント)を鍛える
エンゲージメントを上げるためには、セルフコンパッションを持ち、自分の能力や強みを発揮することで、自分らしい生き方を実現することを指す「自己実現」を満たす必要があります。ただし、自己実現の達成とは、1つだけの特性の成果ではありません。「自分はどんな人間か(AS IS)」「どんな人間を目指したいか(TO BE)」を二つを加味しつつ、。そのバランスを調整することが必要です。仕事における自己実現の調整とは具体的に4つを調整する必要があります。
- 強みのスキルを生かせる仕事がある
- 社会とつながるストーリーを描ける
- 助け合いができる人脈を形成している
- セルフコンパッション「自分への思いやり」が大切にされる
皆さんはこの他にも、さまざまな因子を組み合わせて自分自身で調整する必要があります。
心と体の健康を大切にする
ポジティブで前向きで希望を持ちながら働くためには、従業員が助け合い励まし合うことが大切です。苦難も笑えれば乗り越えられるという楽観的な考えを備えられるように従業員に伝えましょう。また、従業員の体の健康を守り、心や気力、感情も健やかに保ち、レジリエンス(心の回復力)を持つ重要性を説きましょう。
(3)ゲーミフィケーションを仕事に取り入れる
本記事におけるゲーミフィケーション(gamification)とは、ゲームの要素や組織づくりに取り入れて、従業員のモチベーション向上やネットワーキング促進に役立て、エンゲージメントを高める手法のひとつとして捉えています。優れたゲーミフィケーションには4つの要素が含まれています。この4要素はWinnable(勝てること)、Novel(斬新であること)、Goals(目標があること)、Feedback(フィードバックがあること)、と言われ、「WNGF」と呼ばれています。
- Winnable(勝てること)
- Novel(斬新であること)
- Goals(目標があること)
- Feedback(フィードバックがあること)
Winnable(勝てること)
優れたゲームにはプレーヤが勝てるように設計されています。ゲームには明確なルールがあり、私たちは粘り強くやることで、勝てると考えています。つまり楽観的になれる正統な根拠があるのです。この楽観主義は困難なことを面白くしていき、没入感を演出します。仕事においても、無理難題を設定するのではなく、従業員の力量に少しの努力すれば確実にこなせる仕事を与えることが大切です。
Novel(斬新であること)
優れたゲームには必ず新たなステージ(レベル)、新たな敵、新たな功績が用意されています。人間の脳は常に斬新さを求めているからです。ユーザーを刺激し、興味をそそらせるストーリを作ることが大切です。エンゲージメントが低い従業員には単調で決められた業務を与えていませんか?できる限り仕事にバリエーションを持たせ、刺激を与えてあげることで、エンゲージメントが改善します。
Goals(目標があること)
優れたゲームには攻略法があり、攻略するまでの時間が実現可能な反映であることが多いです。時間制限は、ユーザーにとって攻略の足手まといになりますが、逆に言えば制限時間内でクリアできる攻略法があることをユーザーは理解しています。仕事においても個人の達成目標と制限時間(期間)を明確にし、仕事に打ち込める環境をつくることが大切です。
注意すべきことがひとつあります。職場において目標は常に設定されていますが、それはユーザーのためというより企業が達成したい目標であることを認識しましょう。果たして従業員の目標は企業の目標と同じでしょうか?企業の目標が叶えば従業員の目標も叶うのか、について考える必要があります。
Feedback(フィードバックがあること)
ユーザーが正しい行いをすれば正しい報酬を得られ、間違ったことをすればペナルティが課されます。この構造を組み合わせることがゲーミフィケーションに不可欠です。報酬とペナルティを明確にすることで、エンゲージメントが低い従業員も仕事の中で、今の自分がどんな状況にあり、何の仕事をして、生産性を上げるにはどう改善すればいいのかを私大に考えるようになります。
(4)感謝の気持ち伝え合う文化を作る
気持ちは伝播すると言われています。そのため、従業員の感謝の気持ちは、周囲の従業員に伝播し、感謝の気持ちを広げることができるのです。伝播が広がると、企業全体の従業員エンゲージメントは高まります。
UCLAの神経科学者アレックス・コーブは著書でこう述べています。
最も重要なのは、感謝したいことが見つかることではない。見つけようと意識を向けることだ。
エリック・パーカー著 「残酷な成功体験」より抜粋
多くの従業員に「感謝の気持ちを見つけよう!」と能動的になってもらうための施策を広報担当は実施すべきなのです。社内SNSで感謝するイベントを催してもいいですし、ご自身がまず、同僚に感謝や賞賛のメールを毎日送る習慣を付けるのでもいいかもしれません。
終わりに
エンゲージメントが低い企業が直ちに取り組むべきこととして4つの視点について解説しました。私も企業でこの視点で実践していますが、それぞれの施策では成功と失敗を繰り返しており、簡単なことではないことを十分理解しています。しかし、方向性を見失わずに一貫した施策を取ることで、成果は少しずつ出ています。皆さんもぜひひとつずつ実行してもらえれば幸いです。creativeog[クリオグ]では従業員エンゲージメントに関するさまざまな記事を掲載しています。ぜひ他の記事もご覧ください。