人間関係や企業のマネジメントで用いられる考え方に262の法則があります。本記事では262の法則とは何かを説明した上で、従業員エンゲージメントを高めるための方法について解説します。
262の法則とは何か
ある集団において、2割の人間が精力的に働き、6割が普通に働き、残りの2割が怠け者になるという法則です。働きアリの法則としても知られています。
働きアリの法則
- 働きアリのうち、よく働く2割のアリが、コロニーで必要な食料の8割を集めてくる。
- よく働くアリと、平均的に働く(時々怠ける)アリと、ずっと怠けるアリの割合は、2:6:2になる。
- よく働くアリ2割をコロニーから間引くと、残りの8割のアリの中から2割がよく働くアリになり、全体としてはまた2:6:2の割合になる。
- よく働くアリだけを集めても、一部が怠け始め、やはり2:6:2に分かれる。
- ずっと怠けるアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる。
また、経済学者のヴィルフレド・パレート(Vilfredo Frederico Damaso Pareto)が、国家の富の8割は2割の富裕層によって占められていることを19世紀に発見し、集団の上位の2割が、全体の8割を生み出すことをパレートの法則(80:20の法則)と名付けました。262の法則はパレートの法則の亜種とも言われています。
262の法則は組織にも当てはまるのか?
企業組織において262の法則は当てはまります。一般的に、全体の2割の従業員が精力的に働き、6割が普通に働き、残りの2割が怠け者になる傾向が高いとされています。
さて、262の法則を使って組織について考えるとき、HR部門で議論に上がることがあります。それはどうすれば企業全体の従業員エンゲージメントを高められるのか、というものです。
まずは、エンゲージメントを高めるために、やってはいけない2つの施策について解説します。
エンゲージメントを高めるための誤り
(1) 上位2割を優遇する(高い報酬を与える)
上位2割の人たちは、エンゲージメントが高く、やる気に満ちています。彼らに高い報酬を与えて優遇することでやる気をさらに上げることは簡単です。しかし、中間層6割や下位2割との待遇差が広がるため、組織全体としてのエンゲージメントは高まりません。つまり組織内で二極化が起こるため上位2割のみを優遇してはいけないのです。
(2) 下位2割を切り捨てる(解雇や退職勧告、出向など)
下位2割は怠惰な人間が集まるため、切り捨てることが得策だと思われるかもしれませんが、それは誤りです。たとえ、下位2割を解雇や出向などで、追い出したとしても、中間層6割の中から新たに下位2割が生まれるのです。そのため、切り捨てることは意味がありません。また、下位2割は全体の8割が疲弊したときの予備要員であるため、切り捨てることで、組織全体が疲弊して全体のエンゲージメントが下がる可能性があります。
価値基準の軸をずらせば262の構成は変わる
企業において「勤勉な従業員と怠惰な従業員」の線引きするための基準はひとつではありません。売上高や利益だけが企業の評価基準ではないのです。価値基準を変えれば262の構成は変わります。
例を挙げましょう。
- Aさん:強引な営業と同僚や部下に過労を強いるが、営業成績がトップ
- Bさん:丁寧な接客と同僚や部下から人望が厚いが、売り上げが最下位
さて、2人を比較したときに、どちらが勤勉な上位2割に入るでしょうか?売り上げを価値基準に据えるなら、Aさんですが、コンプライアンス(企業の倫理性)を価値基準とすればBさんが優秀となります。このように、262の法則は何を基準とするか、考える必要があります。
従業員エンゲージメントを高めるには
ここまで、262の法則とは何かを説明し、価値基準をずらせば262の構成が入れ替わることを解説しました。ここからは、どうしたら従業員エンゲージメントを高められるのかを、262の法則から読み解きます。
(1) 社内SNSで262の上位2割と中間層6割を刺激する
社内SNSとは、組織内限定のSNSを指します。一般的に上位2割の従業員はエンゲージメントが高く、社内SNSを活用して情報発信や投稿にリアクションする傾向にあります。一方下位2割は社内SNSにアクセスしません。中間層6割は、社内SNSを認知しアクセスするものの、自ら投稿せず、リアクションも取らない、いわゆる「見る専」です。
社内SNSの特長は組織における価値基準が多様であることを認知させ、さまざまな基準によって組織の262が入れ替わるきっかけになることです。企業は多様性(ダイバーシティ)を重視しており、さまざまな価値観を認め合える社内SNSは社内エンゲージメントを高めるための最適なツールと言えます。
そのため、中間層の6割に対してアプローチをかけて社内SNSへの参加を促し、さまざまなコミュニティに属することで、自分が上位2割に入る領域を見つけさせることが有効な手段です。中間層6割が社内SNSに参加することで、全体の8割の従業員が自由闊達なコミュニケーション活動に参加することができます。上位2割は中間層が活発に動けば刺激となってさらに努力するため、結果的に全体の底上げにつながります。
(2) 下位2割が上位2割になる価値基準を考えさせる
(1)だけでは、下位2割との差が大きくなり、彼らはふてくされてしまいます。そのため、会社全体の従業員エンゲージメントを高めるためには下位2割に対するアプローチも大切です。ここでおすすめするのが、下位2割が上位2割になれる価値基準を設定してあげることです。
例えば、以下のような価値基準を設定しましょう。
- あいさつができる
- 礼儀正しい
- 整理整頓ができる
- 特定領域の知識に長けている(業務だけでなく趣味でも構わない)
下位2割とはいえ、みな等しく人間です。褒められることで彼らの自己肯定感を高めることができます。怠惰である場合、業務では褒める点が無いかもしれません。しかし、共に仕事をする上で、些細なことでも褒めることができれば、彼らのエンゲージメントは劇的に上がります。
さらに「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えましょう。一見、下位2割は怠惰かもしれませんが、どこかで感謝に値する行為をしているかもしれません。
エリック・パーカー著の「残酷すぎる成功体験」にはこう書かれています。
人びとにもっとあなたと時間を過ごしたいと思ってもらう秘訣は、彼らに対する感謝の気持ちにほかならないという。感謝こそは、幸福をもたらす最強の平気であり、また、長続きする人間関係の礎である。
エリック・パーカー著 「残酷すぎる成功体験」 pp289
褒める・感謝する文化を広めるには社内SNSがおすすめです。SNSは直接時間を共有しないですし、顔を合わせたコミュニケーションではないので、「ありがとう」を伝えやすいと思います。いいね!するだけでも効果はあります。ぜひ社内SNSで多くの人に「ありがとう」を伝えましょう。
(3) 個としてのプロになるように、伝え続ける
これからの時代、従業員の自己実現を企業が支援することで従業員エンゲージメントを高めることが重要です。従業員は自己啓発に投資し、キャリア開発を行うため、企業は従業員の意志を尊重するだけでなく支援することで、従業員の企業に対するエンゲージメントは高くなります。
トヨタ自動車の豊田章男社長は2019年の年頭あいさつにおいて、「”自分”のためにプロになれ!」と従業員に語りました。
あいさつの最後に豊田社長が述べた言葉を引用します。
皆さんは自分のために自分を磨き続けてください。トヨタの看板が無くても、外で勝負できるプロを目指してください。私たちマネージメントは、プロになり、どこでも戦える実力をつけた皆さんが、それでもトヨタで働きたい、心から思って頂ける環境を作り上げていくために努力して参ります。他人と過去は変えられませんが、自分と未来は変えられます。皆さん、一緒にトヨタの未来を創っていきましょう。頑張りましょう。
豊田章男からのメッセージ ~”自分”のためにプロになれ!~
これからは従業員の自己啓発を推奨し、個としてのプロが増える環境を社内に築かなければいけません。すべての従業員が「私はプロである」と自己肯定感が高い状態にできれば、従業員エンゲージメントは高まります。個としてのプロに成長することを企業として支援できれば、彼らが会社に共感して、前向きに働くようになります。
終わりに
262の法則を考えながら、それぞれの従業員に合ったアプローチを取ることで、総じて従業員エンゲージメントを高めることができます。まずは感謝の気持ちを伝えることから始めましょう。感謝することにコストはかかりません。
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