デザイン思考における厄介な問題(Wicked Problem)とリフレーミング

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社会課題が複雑になる中で、デザイン思考を取り入れた課題解決が求められています。しかし、デザイン思考において、「厄介な問題(Wicked Problem)」を打開する「リフレーミング」が広く知られるようになりました。本記事ではデザイン思考における厄介な問題を明らかにし、打開策としてのリフレーミングについて解説します。

デザイン概念図

デザイン思考とは

デザイン思考(Design Thinking)は顧客となるユーザーの潜在的な欲求(ニーズ)を見つけ、その欲求を叶えるための計画を立てて具現化するためのデザイン領域です。デザイン思考では「Empathy/共感」が必要とされ、ユーザー調査やユーザーエキスペリエンス(UX)など、サービスデザインなどが包含され、これらデザイン領域の経験や実践から新たなイノベーションが生まれると考えられています。詳しくは別記事で解説しています。

デザイン思考における厄介な問題とは

厄介な問題(Wicked Problem)はHorst W. J. Rittel氏とMelvin M. Webber氏が1973年に発表した “Dilemmas in a General Theory of Planning” に登場する言葉です。この論文の概要では社会政策の問題に立ち向かうための科学的アプローチを否定する形で「厄介な問題」が記されました。

The search for scientific bases for confronting problems of social policy is bound to fail, because of the nature of these problems. They are “wicked” problems, whereas science has developed to deal with “tame” problems.

社会政策の問題に立ち向かうために科学的根拠を追い求めることは、その問題の性質上、必ず失敗する。それは科学は「単調で無味乾燥な」問題に対処するために発展してきたため、「厄介な問題」には対応できないからだ。

Dilemmas in a General Theory of Planning

厄介な問題(Wicked Problem)は厄介と言われる所以として、10の特性を持っています。

  1. 解決策が真偽でなく善悪である
  2. 解決策の試行錯誤ができない
  3. 解決策が問題の見方に縛られる
  4. 問題だと言い切れない
  5. 解決に終わりがない
  6. 問題が唯一無二
  7. 多様な問題が絡み合う
  8. 明確な問題定義ができない
  9. 終わりを決めるルールがない
  10. 即効性のある解決策がない

このように厄介な問題は、そもそも「何が問題なのかがわからない」という状態で、「こうすればよい」という正解が無く、どのように取り組んでも、新たな問題が生じるという連鎖が起こります。そのため科学的根拠ではこの厄介な問題は解決できないというHorst W. J. Rittel氏とMelvin M. Webber氏の言葉は正しいと思います。

また、リチャード・ブキャナン(Richard Buchanan)は、自身が執筆した記事 ”Wicked Problems in Design Thinking”の中で、デザイン思考を「技術文化の新しくて自由な芸術」(Buchanan、1995、p.3 筆者訳)と定義した上で、デザイナーは「まだ世に存在しないことを発想して具現化することがよくあり、これは厄介な問題における不確実性の文脈で発生する」と強調しました(Buchanan、1995、p.17 筆者訳)。つまり、デザイナーが実践するデザイン思考は「厄介な問題」に直面しやすい一方で、発想と具現化の能力が役立つということが言えます。

厄介な問題(Wicked Problem)に取り組むには

これから革新的なモノやサービスを生み出すには「何が問題なのかがわからない」という厄介な問題に立ち向かう必要があります。そのためには解決策を考える前に、まずは真の問題を発見し、定義することから始めなければいけません。
一見するとわからない問題に光を当ててあぶり出し、明らかにするために必要なことが「リフレーミング」と呼ばれるデザイン思考の考え方です。リフレーミングを実践することで、気づきにくかった問題を再定義し、今まで想像しなかった解決策を発見することができます。

リフレーミングとは

リフレーミングとは、これまで常識とされていた解釈や既存の枠組み(フレーム)から、新しい視点や発想で事象を捉えなおすことを意味します。同じ意味を持つ情報であっても、焦点の当て方によって、人はまったく別の意思決定を行うという認知バイアスであるフレーミング効果(Framing Effect)から脱することができます。デザイン思考においては問題の見方を変え、解決策をガラリと変えることです。複雑な課題をさまざまな角度から切り取って考察します。この考えは「何が問題なのかがわからない」という厄介な問題にも有効です。一見してよくわからない問題でも違う角度から眺めてみることで、新鮮で効果的なアイデアが生まれることがよくあります。

有名な例は
自動車を世に送り出したヘンリー・フォードは、自動車を世に送り出したときにこう述べています。

If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.

もし、人々に”移動手段として何が欲しいのか?”と聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えただろう」

フォード・モーター・カンパニー創立者 ヘンリー・フォード

この言葉は、顧客に欲しいものを聞いても、顧客自身が本当に欲しいものはわからない、という意味で使用されます。これまでの常識は馬車という乗り物にフォーカスしているため、アイデアはより速い移動ができる馬の枠組みを超えることはありません。
顧客は「速く快適に移動すること」が真のニーズであるにもかかわらず、自動車が想像できなかったために、「速い馬が欲しい。」と答えています。それに対してフォードは、「速く快適に移動すること」という問題にフォーカスをあて、リフレーミングし、再定義することで馬車にこだわる必要はないと気づき、新しい移動手段としての自動車という発見にたどりつきます。
このように、革新的なプロダクトやサービスは、リフレーミングによって問題を再定義することから始めています。

終わりに

厄介な問題(Wicked Problem)はデザイン思考を用いてリフレーミングを実践することで、「何が問題かがわからない状態から脱却し、革新的なサービスやプロダクトを生み出すことができます。
creativeog[クリオグ]ではデザイン思考に関する記事を多数執筆していますので、他の記事もぜひご覧ください。

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