どうやって新規事業の提案で聴衆を引きつけられるのか?

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私は新規事業を創出するためのワークショップを企画・実施することがあります。このワークショップで必ず最後に実施されるのがプレゼンテーションです。参加者が考案したアイデアやサービスを経営幹部や審査員にプレゼンし、評価あるいは事業採択の可否をしてもらいます。本記事では新規事業の提案で聴衆を引きつける伝え方について解説します。

コミュニケーション概念図

よくある誤解!聞き手はビジネスモデルの詳細を知りたいわけではない

世の中には、ビジネスモデルの図解や、バリュープロポジションキャンバス、ビジネスモデルキャンバスなど、ビジネス創出のためのビジネスキャンバスがたくさんあります。プレゼンテーションでよくある失敗は、新規事業の提案において、これらキャンバスの穴埋めした答案を時間をかけて説明することです。

ビジネスキャンバスのNG解説図

気持ちはわかりますが、聞き手(=審査員や経営者)は最初からビジネスの詳細を長々と聞かされることを好みません。そのため、ビジネスモデルの詳細を説明しても、聞き手の共感は得られず、説明の時間を浪費するだけです。前述のキャンバスは自身のアイデアやコンセプトを整理して省察するためのもので、プレゼンテーションに使うものではない、ということを認識しましょう。キャンバスを使ってコンセプトを整理した上で、最もコンセプトを適格に表す言葉を考え抜く労力を惜しんではいけません。

聞き手が最も関心があるのは事業が収益を上げて儲けられるか

日々新しい製品やサービスが出てくる中で、多くの新規事業は後追いの市場参入になります。このような場合、聞き手の最大の関心は、皆さんの提案する新規事業がどうやって儲けるかということです。他社との競争優位性がどこにあり、高い利益率を確保するためのからくり(構造)が何かを、わかりやすく・端的に伝える必要があります。繰り返しますが、ビジネスキャンバスはわかりにくく、冗長になりがちなので、聞き手は耳を傾けません。

例えば、皆さんも一度は下記のような話を聞いたことがありませんか?

  • マクドナルドはハンバーガーの利益率は低く、ポテトやドリンクの利益で儲かる。
  • プリンターは製品ではなく、インクを売ることで儲かる。
  • UberEatsはユーザーにクーポンを配って支出が多いが、店舗から手数料35%取っているので儲かる。

なぜ、皆さんはこのような話を覚えているのでしょうか?それは儲けのからくりをわかりやすく・端的に言われると頭に残りやすいからです。新規事業のプレゼンでも同じことが言えます。聞き手に興味を抱かせて記憶に残させるためには、儲けの仕組みを簡単な言葉で伝える必要性があります。

それでは、どのような言葉や表現を考えたらいいのでしょうか?

端的な言葉で聞き手の興味を抱かせるには、彼らの固定概念を否定する

聞き手が新規事業創出の経験が豊富だった場合、提案タイトルを見た瞬間に似たような過去の経験や事例を回想し、瞬時に固定概念を形成します。その固定観念の良し悪しで、皆さんのプレゼンに対する評価が勝手に決まってしまいます。これは不条理なことですよね。そのため、プレゼンテーションではその固定概念をどれだけ早く除けるかが重要です。つまり固定観念を否定するのです。人は自分の考えを否定されると、「なぜだ?どういうことだ?」と反応し、興味が抱きます。端的な表現を考えるときは、相手の考える価値観を想像し、それを覆すことで、自分のプレゼンテーションに引き込むことが容易になります。

固定観念を否定し、儲けをわかりやすく、端的に伝える方法

ここまで、プレゼンテーションにおいて、聞き手の固定観念を取り除き、「儲け」を伝えることが重要だと説明してきました。ここからは、具体的にどんな説明を行ったらいいかを解説したいと思います。

人の興味を惹きつけるキャッチコピーを作る

固定概念を否定し、「儲け」をわかりやすく伝えるために、おすすめするのが逆説表現です。

例えば、
「今までタクシーで移動するにはお金を支払うものだと思っていませんか?これからは違います。タクシーに乗ることでお金を受け取れるんです!」

1文目の「~だと思っていませんか?」が固定観念の認識、
2文目の「これからは違います」が固定観念の否定
3文目が新たな価値の提供(=儲け)

固定観念を否定し、それに代わる価値を訴求することで、聞き手の関心を得られます。このコピーのあとに「なぜならば…」とプレゼンテーションを続けることで、聞き手はスムーズにプレゼンテーションに耳を傾けるようになります。

動機や目的を言葉にする

鮮烈なコピーのあとに、必ず語ってほしいのが、なぜその新規事業を興したいのかという動機や目的を言葉にしましょう。プレゼンテーションでよく見られるのが「MISSION VISION VALUE」を定義することです。

MISSION ミッション:使命や目的
ミッションとは、使命、目的、存在意義を指し、提案する事業が何のために、どんな未来を実現したいのか?を記述します

VISION ビジョン:将来のあるべき姿
ビジョンとは、ミッションを実現させた将来のあるべき姿を指します。事業化した先に見える未来を言葉にします。

VALUE バリュー:提供価値
バリューとは、事業において提供できる価値や指針を指します。ミッションやビジョンを実現させるためにどのような行動をとるべきなのか、顧客に提供できる価値はどんなものなのかを言葉にします。これら3要素が洗練されていると、提案に力強さが出てきます。

顧客の発見と彼らのニーズを言葉にする

次に潜在顧客を明らかにするか、顧客を創造することを伝える必要があります。プレゼンテーションでは、その顧客が誰かを明確にし、彼らが課題に感じていることや必要としていること(ニーズ)を言葉にしましょう。ここで気をつけることがあります。それは、未来形でアイデアを語って、顧客を発見してはいけません。

例を使って説明します。

あなたは、さまざまな電子マネーの残高を一覧できるスマホアプリを作りたいとします。電子マネーが普及するにつれて、どの電子マネーにいくら入っているかわからないユーザーが多く、一覧できれば残高不足の心配がなくなり、効率的な買い物体験が可能になると考えたからです。街頭インタビューでアプリが欲しいかと聞いたところ、はいと答えた人が全体の8割いました。

電子マネーアプリの図解

果たして、このアプリには顧客がいると言えるのでしょうか?
答えはNOです。
このインタビューだけで、顧客がいるとは言えません。なぜかというと、顧客は未来の話をすると簡単に嘘をつくからです。8割のうち、本当に欲しい人がどれだけいるか、このデータでは見えてきません。「あったらいいな」と「実際にダウンロードする」では雲泥の差があります。

ユーザーの嘘をつく構造図

そこで、おすすめするのが、過去についてインタビューすることです。アプリの例で言うと、

  • あなたは複数の電子マネー併用していますか?なぜですか?
  • 過去1か月で残高不足で決済できず困ったことはありましたか?
  • 複数の電子マネーを併用する上で、気を付けていることはありますか?

こういった現在や過去についての質問では、嘘は付けません。この回答のなかで、「残高が一覧できずに困っている」といった声が多ければ、潜在顧客がいると考えられます。

ただし、もうひとつ注意してほしいことがあります。決して顧客の要望を鵜呑みにしてはいけません。残高が一覧できずに困っているからといって、残高一覧のアプリが欲しいとは限らないのです。例えば、電子マネーにオートチャージを追加すれば残高不足に困らないわけですから。

マーケティングの世界で有名な言葉があります。

自動車を世に送り出したヘンリー・フォードは、顧客ニーズの調査についてこう述べています。

If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.

もし、人々に”移動手段として何が欲しいのか?”と聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えただろう」

フォード・モーター・カンパニー創立者 ヘンリー・フォード

この言葉は、「顧客に欲しいものを聞いても、顧客自身が本当に欲しいものはわからない」という意味で使用されます。顧客は「速く快適に移動すること」が真のニーズであるにもかかわらず、自動車が想像できなかったために、「速い馬が欲しい。」と答えています。あまり顧客ニーズに傾聴しすぎると、誤った判断をしてしまうことに注意しましょう。

市場規模を明確にする

市場サイズを明確にしましょう。決して市場規模が大きければいいものではありません。市場規模が大きければ競合が多いので、先駆者でない限り、レッドオーシャンになりやすいです。一方でニッチなマーケットの場合は競合が少ないため、収益が持続しやすくなります。それぞれ長所短所があるため、新規事業立ち上げにおいて意味のある市場規模を狙いましょう。

事業計画および収益構造を説明する

最後に事業計画および収益構造を説明します。最初のキャッチコピーで「儲け」について語った内容の種明かしをここで行いましょう。事業計画や収益構造については、提案するサービスやプロダクトにより、フォーマットが異なるため、本記事では深く解説しません。皆さんの提案内容に合わせて適切なフォーマットを活用しましょう。

終わりに

新規事業を創出するワークショップではプロセスは重要ではなく、最終成果物が審査員に認められ採択されるかどうかがゴールになります。そのため、プレゼンテーションのクオリティを高めて、聞き手を引きつけるプレゼンテーションを心掛けましょう。creativeog[クリオグ]ではワークショップに関する記事を多数執筆していますので、関連記事もぜひご覧ください。

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