3種類のデザインとその役割とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

私たちは暮らしの中で「デザイン」という言葉をよく耳にしますが、この「デザイン」には多くの意味が混在しています。この記事ではデザインの定義と役割の変化について、2018年にJohn Maeda氏が定義した3種類のデザインを引用して解説したいと思います。

教科書的なデザインの定義

デザインは英語の「Design」を和文にしたものですが、もともとDesignの語源はラテン語の「Designare」であると言われています。Designareは辞書では「計画を記号に表す」と記されています。そのため、かつてはデザインの意味は「設計」と記述され、派生して「意匠」と訳されることもありました。

デザインは時代とともに意味が変化しており、現代ではさまざまな言葉に使われています。しかし、デザインがつく言葉に共通して含まれるのが「人間(ヒト)が中心にいること」です。デザインの世界では「ユーザー」と言われることも多いですが、デザインには「ヒトの求めることを具現化すること」という考えが根づいています。

3種類のデザイン

現代のデザインの意味は変化する中で、アメリカのJohn Maeda氏らが発表した「Design in Tech Report 2018」でデザインを「クラシカルデザイン」、「デザイン思考」、「コンピュテーショナルデザイン」の3つに分類しました。

Classical Design | クラシカルデザイン

クラシカルデザインは長い年月をかけて社会に浸透したデザイン領域で、完全で、細部までこだわり、高品質なものを生み出す、言わば正統なモノづくりを指します。主に18世紀後半にイギリスで起こった技産業革命の時代から発展したインダストリアルデザインやプロダクトデザインが上げられ、ファッションデザインやグラフィックデザインなどもクラシカルデザインです。建築家のルイス・サリバン(Louis Henry Sullivan)は建築やデザインなどの意匠について、「形態は機能に従う(Form follows function.)」という格言を残していますが、この言葉に当てはまるのがこのカテゴリーです。

Classical Designにおける格言

形態は機能に従う
Form follows function.

ルイス・サリバン | Louis Henry Sullivan

Design Thinking | デザイン思考

顧客となるユーザーの潜在的な欲求(ニーズ)を見つけ、その欲求を叶えるための計画を立てて具現化するためのデザイン領域です。デザイン思考では「Empathy/共感」が必要とされ、ユーザー調査やユーザーエキスペリエンス(UX)など、サービスデザインなどが包含され、これらデザイン領域の経験や実践から新たなイノベーションが生まれると考えられています。

デザイン思考の特長は、観察力・洞察力可視化力造形力の3つです。

観察力・洞察力

ユーザーの行動や欲求などを観察し、深く傾聴することで、ユーザー自身でさえ気づいていない課題や感情の動きを明らかにした上で、課題や潜在欲求の本質を見抜く能力です。

可視化力

発見した課題を解決するためのアイデア発想において、絵やイラスト、図解して共通理解を醸成させる力です。文字では伝わりにくいアイデアを絵にすることで、アイデアの本質や背景など、たくさんの情報を周囲に伝えることができます。言葉よりも画像のほうが人間にとって情報を処理しやすいのです。

造形力

プロトタイピングなど、とにかくアイデアを形にする能力です。早期のプロトタイプはユーザビリティ(使い勝手)を検証する上で役に立ち、被験者によるユーザー評価でも用いられます。評価結果をすぐに次のプロトタイピングに生かすことができるのがデザイン思考の造形力と言えます。

プロトタイピングについては別の記事で解説していますので、ぜひお読みください。

Computational Design | コンピューテショナルデザイン

インターネットの発展によって世界中の何十億の人々が繋がる世界で必要とされる新たなデザイン領域で、いまだ具体的なデザインがあるわけではありません。ちょっと前までは音声インターフェースやチャットボットやアルゴリズムなど、新たなインターフェースを生み出す領域とされてきました。しかしこれからはメタバース(仮想現実)やAI、自動運転がコンピュテーショナルデザインの代表例になると私は考えています。コンピュテーショナルデザインは他のデザインとは異なり、常にデータやソフトウェアのアップデートを繰り返し、テクノロジーのパラダイムシフトを引き起こす可能性を秘めています。さらに、デジタル世界に留まらず、現実世界にもまたがって存在してきており、常に革新と陳腐化が隣り合わせの領域です。

コンピュテーショナルデザインを実践するためのマインドセット

コンピュテーションを知る

まずはデザイナーがプログラミングの知識を持つ必要があります。これは必ずしも自分自身でプログラミングをする必要はありません。自分でプログラミングができないにしても知識としてプログラミングを学び、エンジニアやプログラマーと議論したり、情報交換できるようになりましょう

テクノロジーに疑いの目を向ける

コンピュテーショナルデザイナーは、UXを起点として物事を考えるIT人材でなければいけません。プログラミングや最新テクノロジーに精通し、常にテクノロジーの利点ばかりに目を向けずに合理的な判断を下すことが大切です。時にはテクノロジーに対して批判的な視点で思慮することも大切です。

3種類のデザインを横断する

コンピュテーショナルデザイナーはひとつのデザイン領域に留まって安心してはいけません。クラシカルデザインやデザイン思考などの他の領域にも気を配り、デザイン領域を横断しながらデザインを進める必要があります。そのためには異なる専門性を持つ人材と幅広く交流することが必要です。

AIなどの新技術を積極的に学ぶ

コンピュテーショナルデザイナーは好奇心を強く持って、人工知能やメタバースなどの新技術について学ぶことが大切です。このデザイナーとしての意欲は新しいUXを作るための優れた洞察力と、ユーザー体験を創出する力の源泉となります。

3分類のなかで生き残るデザイン分野はどこか

クラシカルデザイン、デザイン思考、コンピューテショナルデザインのいずれも、今後も生き残る分野だと考えています。それは3つすべてのデザインが「ヒトの求めることを具現化すること」という共通の考えを持っているからです。ヒトが求めるものを創り続ける限りは、デザインは社会から求められると思います。しかし、生き残りやすいのはコンピューテショナルデザインの領域で活躍するデザイナーではないかと私は考えています。まだ見ぬ世界に足を踏み入れるデザインには多くの可能性を秘めているからです。

OGはどこのデザイン領域に属するのか


私は、今はデザイン思考の領域で働くデザイナーです。これまで多くの顧客の潜在ニーズをユーザー調査から探し出し、顧客とともに共感できるコンセプト立案と、製品やサービスを具現化してきました。しかし、今後を見据えると、コンピュテーショナルデザインの領域にも足を踏み入れたいと思っています。いわゆる「軸ずらし」と言われますが、私もデザイン思考の軸をずらしつつ、コンピュテーショナルデザインに挑戦します。

creativeog[クリオグ]ではデザインに関する記事を多く執筆しているので、ぜひ読んでみてください。

SNSでもお読みいただけます