ポケモンGOはMVPを活用したARゲームです。MVPを活用したアプリ開発によりポケモンGO開発者のリソースを削減し、フィードバックによりユーザーを予測しながら開発するのではなく、ユーザーの声を反映させる形で開発を進め、優れたUXをユーザーに提供しています。本記事では、ポケモンGOのUXデザインを事例にMVPについて解説します。
ポケモンGOとは
米Nianticが手掛けるスマートフォン用ARゲーム「ポケモンGO」は2016年に発表され、現在も多くのアクティブユーザーがいるアプリケーションです。アプリ調査会社の米SensorTowerは2021年12月に、2021年に年間売り上げ10億ドルを超えたモバイルゲームの世界ランキングを発表し、ポケモンGOは、約12億ドル(約1364億円)で6位にランクインしました。2016年からの総売上高は50億ドル以上と言われています。
ポケモンGOのUXデザインを振り返る
ポケモンGOはUXデザインとして高い評価を受けています。MVPについて話す前にポケモンGOのUXを振り返りたいと思います。ポケモンGOが優れたUXデザインだと称される理由を6つにまとめました。
現実世界と仮想世界を結び付ける
ポケモンGOに登場する街は私たちの街そのものです。実際の地図をゲームで反映させ、時間や天候までもが一緒になるように設計されています。こうした現実世界と仮想世界を融合させたことで、ユーザーがより没入しやすい環境を構築しました。
コミュニティと競争意識を芽生えさせる
ポケモンGOでは赤、青、黄色の3つのチームに分かれ、陣地を取り合う要素が含まれています。ポケモンバトルで勝利して陣地を奪い合うこと、経験値を上げたりアイテムをゲットしたりすることができます。チームに分けるというUXによって、同じ色同士の結束力を強め、競争意識を芽生えるためゲームへのエンゲージメントが向上します。
ポケモンをゲットするUXを考え抜く
ポケモンファンにとって、ポケモンを見つけ、ゲットすることは至高の喜びです。そのため、ポケモンをゲットするまでのUXを考え抜いています。UIの動きだけでなく、サウンドなど、さまざまな工夫により、私たちはポケモンと共生する疑似体験をすることができるのです。
ランダム性
ポケモンGOにはさまざまなランダム性を盛り込んでいます。ポケモンをゲットするのもランダムですし、アイテムもランダムです。そのためユーザーは思い通りにいかないことでストレスに感じつつも、目的を達成するためにゲームにどんどん没入していきます。
ポケモンユーザーの欲求を刺激する
往年のポケモンユーザーはポケモンをゲットし、戦いを通じて成長するという体験をしたいはずです。こうした彼らの欲求を刺激することができたため、幅広い年齢層を取り込むことができました。
ゲームを運動にすり替える
ポケモンGOでは、ポケモンをゲットするために歩く必要があります。歩く要素をゲームに組み込むことで、ユーザーはゲームしつつ運動も同時にできるので一石二鳥です。シニア層に受け入れられたのも、運動不足の解消という副次的な効果が功を奏したと考えられています。おそらく多くのポケモンGOユーザーは「ゲームしてくる」とは言わずに「ウォーキングしてくる」と家族に伝えて、家を出るはずです。ポケモンGOはゲームを運動にすり替えて、ゲームそのものを正当化することに成功しました。
MVP(Minimum Viable Product)とは
MVPは短期間で簡単な製品を市場に投入してプロダクトの実用性を確かめた上で、ユーザーのフィードバックを継続的に集めます。そして収集されたデータを元にプロダクトを改善し、市場に投入するプロセスを繰り返す、UX(ユーザーエクスペリエンス)に基づく開発手法です。MVPはユーザーの「必要最低限」のニーズを正しく理解することが大切です。
例えば、車輪2つ用意してもユーザーにとって価値はありません(図の上段)。しかし、スケートボードになれば価値が生まれます(図の下段)。車輪は移動手段になることで、初めてユーザーに価値として認められます。
MVPは新しいモノ・コトが好きなユーザー層をターゲットにしています。彼らに対して機能だけでなく、魅力的かどうかを伝える必要があります。使いやすくて楽しければ魅力的に感じるため、多少のエラーは見逃してもらえます。こうしたユーザーをいち早く取り込むことでフィードバックを集め、改善につなげることができます。
なぜMVPなのか
MVPを活用する理由は、そのメリットが事業会社や投資家にあるためです。
MVPのメリット
- 短期間で簡単な製品を市場に投入してプロダクトの実用性を確かめられる
- 早い段階でユーザーのフィードバックを継続的に集めることができる
- 収集されたデータを元にプロダクトを改善することができる
- 開発にかかるリソースを削減することができる
- 早い段階で事業資金を調達できるため自己資本が少なくても開発できる
- 競争優位性を確保できる
このように、MVPを実践することでプロダクトの顧客体験(UX)が劇的に改善します。ぜひUXデザイナーは積極的にMVPを活用してもらいたいと思います。
ポケモンGOのMVP(Minimum Viable Product)のお手本
ポケモンGOはこの動画から始まりました。
この動画でコンセプトや基本的な機能を開示したことで、Nianticはコードを1行も書かずにユーザーフィードバックを収集することができたのです。そして、フィードバックによりユーザーを予測しながら開発するのではなく、ユーザーの声を反映させる形で開発を進めることができました。
コンセプト動画で紹介された機能は以下の通りです。
- ポケモンを捕まえる
- 戦って陣地を奪取する
- モンスターボールを投げる
- ユーザー同士でアイテムやポケモンを交換する
- ユーザー同士でバトルする
- ポケモントーナメントで戦い報酬を獲得する
そして、2016年に公開したときには、ARゲームとして必要最小限の1~3の機能のみが実装された状態でした。MVPを活用したアプリ開発によりポケモンGO開発者のリソース(時間、お金、人)を節約することができました。具体的にはユーザーが気にしない機能に労力をかけず、ユーザーが熱狂する機能に十分な労力を割いたのです。そのため、大量のエラーログを修正しないまま公開し、ユーザー側でエラーが頻発しています。しかし、ユーザーフィードバックを得ながら彼らが優先するエラーを中心に改良を重ねることで、システムが安定し、4~6についても順次実装され、6年経った今も多くのユーザーに愛されているARゲームとなりました。
米Nianticの新ARゲームでMVPを体感できるかもしれない
Nianticは2021年にトランスフォーマーのARゲーム「TRANSFORMERS Heavy Metal」を発表しました。現在事前登録を受付中です。おそらくポケモンGOと同様に、MVPを実践しながら、プロダクトの改善を図ると思われます。MVPを体感したい方は、ぜひ新ARゲームをやってみてください。(私もすでに登録しています)
https://www.transformersheavymetal.com/
終わりに
ポケモンGOのUXデザインからMVP(Minimum Viable Product)を理解し、皆さんのデザインワークにMVPを活用していただければ幸いです。
creativeog[クリオグ]ではUXデザインや新規事業開発に関する記事を多数執筆しているので、他の記事もぜひご覧ください。