なぜ社内でSNSは活用されないのか?活性化を阻む従業員の心理とは

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企業は優秀な人材の獲得と従業員エンゲージメント向上のため、社内コミュニケーションに注力しています。そのため、双方向型コミュニケーションとして社内SNSを導入するケースが増えていますが、実態として社内SNSを有効に活用できていません。それは従業員心理が影響していると考えられます。本記事では、なぜ社内SNSが活用されないのか、活性化を阻む従業員の心理について解説します。

コミュニケーション概念図

社内SNSとは

まず社内SNS(Social Networking Service)について説明します。社内SNSとはSNSを社内で構築し、従業員間のコミュニケーションを促すことで、従業員エンゲージメントの向上や会社情報の伝達を支援するサービスです。一般的なSNSと違う点は、社内SNSは社外からアクセスできないため、従業員の心理的安全性を確保し、安心して利用できる点です。また、会社情報の漏洩リスクが低い点が挙げられます。社内SNSの特長として、情報伝達が瞬時に全社へ拡散することができます。社内SNSはさまざまなサービスが提供されていますが、Workplace from Meta、LINE WORKS、Slack、Microsoft Yammer / Teamsなどが一般的に利用されています。

社内SNSを活用できていない企業に共通する課題

企業が社内SNSを導入することは、社内コミュニケーションを活性化させるための手段です。しかし、社内SNSを導入しても、うまく活用されない企業も多く見受けられます。ここからは、社内SNSが活用されていない企業に共通する課題について考察します。

以前執筆した「社内コミュニケーションで社内SNSを活用するには」と題した記事では課題を、業界、企業風土、ITリテラシー、ガバナンス、時間、個人の関心、の6つに分類しました。

そして、先日「バカの研究」(ジャン=フランソワ・マルミオン編,亜紀書房)を読み、上記6つの課題に加え、「人間心理」が社内SNSを阻む要因なのではないかと考えるようになりました。本記事では社内SNSの活性化を阻む人間心理について考察します。

社内SNSの阻む3つの要因

社内SNSを活用する上で、考えるべきことは「悪意」です。社内SNSの使い方を誤ると、悪意が表面化し、ガバナンス(企業統治)に問題が生じます。社内SNS上で従業員の悪意が蔓延することで、従業員エンゲージメントが著しく低下しまい、社内SNSから離れていくことは容易に想像できます。それでは、なぜ社内SNSは悪意が表面化しやすいのでしょうか?それはSNSと特長である3要素が悪意を表面化させるためです。

①情報がすべて可視化される

SNSは誰が、いつ、何を見て、どんな反応をしたか、がすべて記録に残ります。従業員のすべての行動が記録されてデータやグラフとして可視化されるため、会社は従業員の生活を知ることができるのです。また、行動はデータとして単純化され、人のつながりや人間関係が数字や線で可視化されます。可視化が進むと従業員は人とのつながりをイメージとして認識します。

例え
皆さんは実世界で友達の人数が何人か考えたことはありますか?おそらく知らない方がほとんどです。しかしSNSでの友達の人数はわかります。これが情報の可視化です。さらに、SNSは友達との関係性を可視化したりします。それにより、つながりをイメージとして認識しやすいのです。

SNSに没頭し、画像や映像などのイメージで内容を判断する癖がついてしまうと、SNS上に投稿された内容を十分に理解しないまま「たぶんこうだろう」と推察してしまうのです。こうなると勘違いが生まれたり意思疎通ができなくなる従業員が一定数生まれるため、従業員同士でトラブルが起こりやすくなるリスクが潜んでいます。このように、イメージからざっくりとした答えを自動的に導き出す思考を「ヒューリスティック」と言います。ヒューリスティックの記事については別記事で解説しています。

②何でも手あたり次第に他人を裁こうとする姿勢が顕著になる

1980年、ミシェル・フーコーは「なぜ人間はこんなにも他人を裁くのが好きなのか。おそらく、人間に与えられたもっとも簡単にできることのひとつだからだろう」(バカの研究 p181)と言いました。SNSは個人が意見を述べて、いいね!などの評価をする機会が増えたため、人を裁く行為に拍車がかかっています。社内SNSを利用する中で、一部の従業員は他人を裁くことを目的として過激な発言をしたり、悪口や批判を行ったりするリスクが潜んでいます。

③目立ちたいという欲求が肥大化する

SNSは自己表現を容認することで「世界が自分中心に回っている」と思わせて、アクティブユーザーを拡大させました。その一方で個人主義や自己中心主義、あるいはナルシストを肥大化させてしまっています。良くも悪くもSNSの多くの機能は自分の表現を他の人に見てもらうためのもので、承認欲求を満たす機能でもあります。誰もが表現の自由を行使し、ニュースメディアや有識者になりうるSNSは、目立ちたいという欲求を刺激し、肥大化させるのです。しかし、誰もが世界の中心になるということは、全員が同じ横並びの状態です。そうなると、どんな手段を使っても横一線の状態から脱出し、自分だけが有名になろうとする人が出現します。

アイルランドの哲学者、ジョージ・バークリーは「自分の存在することは知覚されることである」(バカの研究 p183)という格言を残しています。つまり自分の存在意義は知ってもらうことで成立するのです。そうなると、「他人に見られ、知ってもらう。」ことがSNSの目的となり、そのための手段を問わなくなります。このように自らの存在意義のために有名になりたいと思う人間が増える可能性があるのです。
社内SNSにおいては、自らの存在意義を示すために役職や立場を誇示し、部下や目下の従業員を見下すリスクが潜んでいます。

ネガティブな人間心理が蔓延するとSNSはスラム化する

ここまで社内SNSで起こりうる悪意を3点を挙げましたが、従業員は下記のネガティブな心理が働くと考えられます。

男性の困った顔
  • 勘違いしたり意思疎通ができないことでトラブルに巻き込まれるかもしれない
  • 他人を裁くことを目的とした過激な攻撃や、悪口、批判を受けるかもしれない
  • 自らの存在意義を示すために役職や立場を誇示し、見下されるかもしれない

このように、他人を蹴落としてでも自分を認めさせたい、自己表現が過激化する社員が社内SNSで行動することが悪目立ちしてしまうと、ネガティブな心理が働き、社内SNSから従業員がいなくなり、次第にスラム化していきます。
スラム化した社内SNSは自己中心的で他人を攻撃する従業員や、暇な従業員、モチベーションが低い従業員などが集まるため、企業としては対応を迫られます。

ここまでSNSがリスクが潜んでいたとしても、皆さんはSNSを利用しますか?

多くの従業員は忙しく、時間がありません。そんな状況で、リスクの高いSNSを使う従業員がどれだけいるでしょうか?リスクを回避するなら、まずSNSは触らないほうが無難です。

ネガティブな従業員の心理を取り除くには?

社内SNSを活性化させるためには、ネガティブな従業員の心理を取り除く必要があります。最も大切なのことは、従業員の心理的安全性を確保することです。そのためには3つの方法があります。

①経営者が社内SNSに積極的に参加し行動する

会社が従業員を守る姿勢を見せることで従業員は安心して社内SNSを活用することができます。一番効果的なのは、経営幹部自らが社内SNSを活用し、従業員と交流を持つことです。企業のトップが介入することで、悪目立ちしようとする従業員は自由に行動できなくなるため、大きな抑止力となります。

②利用規約を策定する

社内SNSを活用してもらうために利用規約を整備し、従業員に周知することが効果的です。利用規約では社内SNSの目的や、プライバシーの取り扱い、禁止事項などを記載しましょう。利用規約に記載すべき項目は以下の6つです。それ以外に皆さんの目的に合わせて内容を充実させましょう。

  • 社内SNSの目的
  • 社内SNS利用上の注意
  • 社内SNSの管理部門
  • 不適切なコンテンツの取り扱い
  • プライバシーに関する取り扱い
  • 内部通報制度・サポート体制

ご参考として主要なSNSの利用規約をご紹介します。

facebook from Meta
Twitter

③社内SNSの管理部門を定め監視体制を構築する

従業員の心理的安全性を確保するためには、社内SNSの管理部門が定期的にSNSを監視することが有効です。一般的には人事総務部門、広報部門などが管理部門になります。多くの社内SNSにはフィルタリングという機能が備わっています。フィルタリングとは、あらかじめ登録した禁止ワードが検出されたときに管理者に通知したり、自動で投稿をブロックする機能です。このような機能を活用して省力化しつつ、社内SNSを適切に管理することで、従業員が安心してSNSを活用することができます。

終わりに

本記事では社内SNSの活性化を阻む従業員の心理について解説しました。この記事を読むと社内SNSを導入することをためらうかもしれません。しかし、社内SNSは従業員同士がつながり、会社情報や経営方針を拡散する上で有用なツールです。社内SNSに潜在する悪意を取り除くことで、社内SNSは社内コミュニケーションを促し、従業員エンゲージメントを高めることができます。creativeog[クリオグ]では社内コミュニケーションについてさまざまな記事を記載していますので、ぜひ他の記事もご覧ください。

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