ダブルダイヤモンドを進化させたクアッドダイヤモンドとは

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デザインプロセスとしてダブルダイヤモンドは広く知られています。しかし時代とともにこのダブルダイヤモンドはさまざまな形で解釈が変わり、そのプロセスが変化しています。本記事では、ダブルダイヤモンドの定義からダブルダイヤモンドの変遷を解説するとともに、クアッドダイヤモンドについて紹介します。

新規事業開発のプロセス

ダブルダイヤモンドとは

イギリスのデザイン協議会(Design Council)が2004年に発表したデザインプロセスです。
このプロセスでは直感的思考と分析的思考を自由に切り替えながら創造的問題解決を行います。新規事業開発や事業戦略を考える人にとって重要な思考パターンです。


デザイン協議会とは

デザイン協議会は1944年にイギリスの景気回復を支援するために創設され、「英国産業の製品のデザインの改善をすべての実行可能な手段によって促進すること」を目的としていました。現在は「デザインによって生活をより良くすること」を目的として活動しています。現在の協議会のミッションは、デザインの役割を社会に認識され、すべての人にとってより幸せで、より健康で、より安全な生活を可能にする世界を目指しています。

デザインプロセス


ダブルダイヤモンドでは、課題抽出、課題定義、解決策の模索、解決策の選定、という4つの主要な段階があります。図に示すように、課題を定義する前半と、解決策を選定する後半とでそれぞれ発散と収束があり、ダイヤモンドを2つ繋げた形を描くことから、ダブルダイヤモンドと呼ばれています。このプロセスは明確な解決策がない課題に対して、アイデア発想を重視しています。つまり、デザイナーが日頃から行っているアイデアを生み出す能力を課題解決の思考として活用しているのです。サービスを利用している人々、彼らのニーズ、強み、願望を理解することからプロセスが始まるため、アウトサイド・イン型プロセスと言われています。

課題抽出

この段階では、リサーチから得られる発見や洞察、気づきを収集します。ユーザーを注意深く観察し、行為に隠されるコンテキスト(文脈や行間)を読み解くことで、課題抽出が可能です。ユーザー起点の考え方です。

課題定義

この段階では、課題抽出された発見や気づきから、課題を絞り込み、取り組むべき課題を設定します。問題を絞って明確にすることで、解決策につなげる重要なプロセスです。

解決策の模索

この段階では、前半で定義した課題に対して、多くのアイデアを考えます。ここは発散フェーズとして、批判的ではなく、人の意見に肯定的かつ生産的な姿勢が求められます。この段階で出てきたアイデアの量と質がイノベーションの源泉となり、独自性や多様性の鍵となります。

解決策の選定

この段階では、出てきたアイデアを選別し、定義した課題を解決する最善の案を選定します。その際、プロトタイピングを行って検証を繰り返しましょう。一連のデザインプロセスから生まれたプロトタイプについて、被験者を使ったユーザビリティチェックを実施し、フィードバックを得ることが大切です。

発散と収束

ダブルダイヤモンドでは発散と収束というアプローチをとっています。顕在化した課題と既存の延長線上にある解決策に囚われずに、アイデアを発散しなければいけません。発散なくしてイノベーションは起こることはありません。しかし、発散だけでは成果が生まれません。成果を生むためにはアイデアを収束させて解決策の質を高めることが大切です。

ダブルダイヤモンドの進化

イギリスのデザイン組織デザインカウンシルは2019年にダブルダイヤモンドをアップデートし、時代に合った形でデザインプロセスを再構築しました。違いのひとつは反復の追加です。ダブルダイヤモンドのプロセスは反復して行われます。それはデザインプロセスを1度行っただけでは、最適なソリューションが創出できるとは限らないためです。最初の「解決策の提供」で得られたフィードバックをもとに、改めて課題抽出からやり直すこともあります。量産品や本番システムの開発につながるアイデアまで質を高めるまで、ダブルダイヤモンドのプロセスは繰り返されるのです。絶え間なく変化するデジタルの世界では、アイデアが「完成」することはありません。製品やサービスがどのように機能しているかについて常にフィードバックを受け取り、それらを繰り返し改善していくことが2019年度版のダブルダイヤモンドには記されています。また、「設計思想(DESIGN PRINCIPLES)」「方法論(METHOD BANK)」が新たに明記されました。2019年のアップデートはデザインプロセスが従来のモノづくりだけでなく、デジタルプロダクトの開発を意識したものだと考えられます。

引用元:Design Council

設計思想(DESIGN PRINCIPLE)

イノベーションのフレームワークは、問題解決者が可能な限り効果的に機能できるように採用するための4つのコア原則の概要を示しています。

  • 人間中心設計:ユーザーのニーズや願望を理解することから始める。
  • 視覚的かつ包括的な対話:絵やイラストは人々が問題やアイデアについて共通の理解を得るのを助ける
  • 共創と協働:一緒に働き、他の人がしていることに刺激を受けましょう。
  • 反復:反復によりエラーを早期に発見し、リスクを回避し、アイデアに対する信頼を築くことができる。

方法論(METHOD BANK)

2019年のダブルダイヤモンドには、顧客の課題発見から課題解決までのプロセスを達成した手法を3つの要素で概念化し、蓄積するプロセスが加わりました。つまり、課題解決で終わりではなく、そのデザインプロセスを振り返り、再現できるように整理することが重要だと説いたのです。
3つの要素

  • 探索(EXPLORE):課題、ニーズ、機会
  • 形状(SHAPE):プロトタイプ、洞察、ビジョン
  • 構築(BUILD):アイデア、計画、専門知識

クアッドダイヤモンドとは

クアッドダイヤモンドは、新規事業開発や事業戦略におけるデザインプロセスとして私が提唱しています。「何を解決するか」、「どうやって解決するか」、「どうやって開発するか」、「どうやって継続するか」という4つの要素で構成するデザインプロセスです。これまでのデザインプロセスに事業化に向けた段階を加えています。

新規事業開発のプロセス

何を解決するか

ダブルダイヤモンドにおける課題抽出の段階です。この段階では、課題解決型だけではなく課題創出型も検討しています。課題創出型とは、まずはじめにありたい姿(ToBe)を考えて、その姿をゴールに据えたときに現状の姿(AsIs)で見直すべき課題を見つけ出すやり方です。バックキャスト型とも言われます。例えばSF映画に出てくる空飛ぶ車がありたい姿としたときに、現状を見て何が課題かを考えるのです。

どうやって解決するか

ダブルダイヤモンドにおける解決解決の段階です。クアッドダイアモンドでは、このプロセスに逆の流れ(矢印)を加えています。これを「創造的な混沌(Creative Chaos)」と言います。抽出された課題が複雑で難解であるほど、創造的な混沌は生まれやすくなります。この混沌を楽しみながら前へ進む姿勢が必要です。

どうやって開発するか

課題解決で決めたソリューションやサービス、製品は粗削りの試作品レベルです。それを市場に流通させる形まで最終化させるのが、この段階です。プロトタイピングを繰り返しながら、最適解を見つけ出します。また、2019年のダブルダイヤモンドで加えられた評価と概念化を加えています。

どうやって継続するか

この段階では事業化に向けた検討を行います。人的資本や金融資本を精査し、収益性を評価します。特長はこの事業継続性の議論を課題解決のプロセスの発散状態から開始することです。逆に収束した後に事業化の検討をしてしまうと、収益性が見合わないケースが多く見られ、やり直しが発生します。課題解決の発散状態から並行して収益性を考えることが大切です。

終わりに

発散と収束を繰り返すダイヤモンドモデルはデザイン思考において重要な知識です。プロセスを繰り返すことで、革新的なサービスや製品を作ることができます。creativeog[クリオグ]ではデザイン思考に関する記事を執筆していますので、他の記事もぜひお読みください。

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