従業員のエンゲージメントを高める社内コミュニケーション

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日本企業は就社というひとつの企業に定年まで属する価値観の下、上意下達のコミュニケーションが行われてきました。一方で、Slack、Microsoft Teamsなど、デジタルのコミュケーションツールが普及し、コミュニケーションのあり方が大きく変わってきています。また、新型コロナ蔓延によるリモートワークにより今までと同じコミュニケーションを継続する日本企業は従業員のエンゲージメントが低くなることに悩まされています。

本記事では、社内コミュニケーションやインナーブランディングを活用して、従業員のモチベーションを高め、企業に対するエンゲージメントを強くする方法を解説します。

企業が抱える課題

新型コロナの蔓延により、出社を抑制し、リモートワークを推奨する企業が増えました。またSlack、Trello、Microsoft TeamsやYammerなど、デジタル上で従業員が直接コミュニケーションできる場は増えました。しかし、オンラインのコミュニケーションが加速するにつれ、企業が抱えるコミュニケーションの課題は顕在化してきました。まずは企業の抱える課題を整理します。

1. 個としてのプロに対して従来型のコミュニケーションは機能しない

デジタルコミュニケーションの普及により時間の裁量が従業員に移譲されました。オフィス勤務では従業員は会社の指揮命令下にいたので、誰が何をしているか常に会社は把握することができました。しかし、リモートワークでは従業員が就業時間中に何をしているのか把握することができません。そうなると企業は、時間の裁量を与える代わりに、従業員に対してプロフェッショナルとしての自主自律を求め、自らのスキルと向き合い、磨きをかけて努力し続ける人材になることを求めます。つまり個としてのプロになるということです。

ここでトヨタ自動車の例を挙げましょう。

2019年の年頭あいさつにおいて豊田章男社長は、「”自分”のためにプロになれ!」と従業員に語りました。


あいさつの最後に豊田社長が述べた言葉を引用します。

皆さんは自分のために自分を磨き続けてください。トヨタの看板が無くても、外で勝負できるプロを目指してください。私たちマネージメントは、プロになり、どこでも戦える実力をつけた皆さんが、それでもトヨタで働きたい、心から思って頂ける環境を作り上げていくために努力して参ります。他人と過去は変えられませんが、自分と未来は変えられます。皆さん、一緒にトヨタの未来を創っていきましょう。頑張りましょう。

豊田章男からのメッセージ ~”自分”のためにプロになれ!

トヨタ以外の企業も例外ではなく、これからは個としてのプロが働きたいと思える環境を作り上げなければいけません。しかし、社内コミュニケーションという側面から見ると、従来のトップダウン型のコミュニケーションから変われない企業が多いのが現状です。ここに従業員と企業との間に見えない摩擦が生じています。

2. 従業員のコミュニケーションに対する価値観の変化に企業が追いついていない

これまでの企業内のコミュニケーションはトップダウン型(ウォーターフォール型)と呼ばれ、上意下達のコミュニケーションを重視し、従業員は滅私奉公の精神で企業に帰属意識を持っていました。トップダウン型は縦割りの組織で上位役職者から情報が伝えられ、伝聞で次々と下位層に伝えられます。この情報伝達はガバナンス(企業統治)の点で優れており、経営陣が情報や権力を占有して従業員を管理しました。日本企業はいまだ、情報管理を行うことで、裁量を従業員に与えない一方で、従業員は責任を負わず、企業に守ってもらう利点を享受しています。つまり受け身の社員が量産されやすい環境なのです。高度経済成長期など、業績が上向きの場合は、このトップダウン型は機能しますが、業績が悪くなると、経営層への不満から従業員のエンゲージメントが著しく低下するリスクがあります。

しかし、多くの企業においてクラウドが整備され、デジタルコミュニケーションが普及すると、従業員は双方向型(ネットワーク型)コミュニケーションに傾倒し始めています。双方向型では、情報は瞬時に従業員全体に広まり、情報格差がありません。また、意思決定が透明化されるため、従業員の共感を得られやすい特長があります。一方で情報を能動的に取得しなければならず、さまざまな裁量が従業員に帰属するため、責任も従業員が負う自己責任の風潮が強くなります。GAFAをはじめとするテック企業はこの双方向型コミュニケーションに舵を切っています。私たちがいま直面する課題は、どうしたらトップダウン型のコミュニケーションに根づいた価値観を排除し、円滑に双方向型コミュニケーションへ移行し、トップダウン型と双方向型のハイブリッドが実現できるか?ということです。

3. 散発的なコミュニケーションによって生産性が上がらない

デジタルコミュニケーションの普及で課題となるのは、創造的な議論や対話がやりにくくなり、質の高いコミュニケーションがしづらい点です。定型業務を行う上では、問題ありませんが、アイデア創出や事業開発など、クリエイティビティが求められる会議では、オンラインコミュニケーションでは、発言する人と聞く人が分かれ、受け身の従業員は静かにしていても違和感がありません。一部の従業員はデジタルコミュニケーションでは意思疎通が難しく、周囲からの監視の目がないため緊張感がなくなり、生産性が落ちてしまいます。

どうやって社内コミュニケーションを変えていくのか?

ここまで、社内コミュニケーションについて、企業が抱える課題を説明しました。ここからは、従業員のエンゲージメントを高めるための社内コミュニケーションとは何かを解説したいと思います。

1. 共感志向で社内コミュニケーションを捉える

従業員のエンゲージメントを高める社内コミュニケーションとして、パーパス・コミュニケーションがあります。リモートワークや、デジタルコミュニケーションが普及するなかで、企業だけでなく個人の存在意義や動機を考えさせるコミュニケーションは、エンゲージメント向上に欠かせません。

経済が成熟し、著しい高度経済成長が期待できないなかで、私たちはなんのために働くかを自問するようになります。かつで日本は経済成長により「もっと上へ、もっと上へ」と登山思想で山頂を目指しました。このときの目指すゴールはひとつなので、従業員はみな共通のゴールに向かい、悩むことなく働くことができました。しかし、これからは下山思想で考えて、行動することになります。山頂から下界を見下ろすとさまざまな景色が見えています。どこに向かうべきか選択肢が広いのですが、それを決めるのは下山する本人です。そのため「なぜここに行くのか?そこに向かう理由はあるのか?」を自問し、自らの意思決定で行動しなければいけません。そこで大切なのは共感です。下山思想の経済において、共感を基軸にしたコミュニケーションを企業も従業員も心掛ける必要があります。

2. 社内コミュニケーションの全体像を理解する

企業が従業員とコミュニケーションを取るとき、まずは社内コミュニケーションの全体像を理解しましょう。下図は社内コミュニケーションと従業員の行動変容を表したものです。

従業員の行動変容を促し、エンゲージメントを高めるためには、さまざまなタッチポイントを使って一貫したメッセージを発信し続けるコミュニケーションが必要です。

認知

従業員が会社情報を取得するのは、会議や社内報、経営者メッセージのほか、報道で流れるニュースです。このような情報で従業員は会社について気にかけるようになります。社内コミュニケーションのきっかけとなるこれらタッチポイントについて、どんな情報が流れるか、常に注視することが大切です。

理解と共感

エンゲージメントを高めるには理解と共感が必要です。特に従業員の共感を得るためには、従業員がさまざまな情報を入手して理解した上で、上司や経営者と対話することが近道です。この対話で従業員が納得できれば、企業に対して信頼と共感が生まれます。

行動と推奨

共感を得ると従業員は自らの意志で行動を始めます。企業はその行動力を積極的に生かすコミュニケーションを取りましょう。具体的には社内報やウェブサイトに従業員を紹介する記事を掲載します。あるいは、活躍する従業員を表彰するなど、従業員がやりがいを感じられる環境を作り上げましょう。そして従業員が講演などの社外露出を増やすことで、従業員にとって企業に対するエンゲージメントがより高まります。

3. パーパス・コミュニケーションを実践する

共感とは主観的な価値観なので、十人十色です。そこで、考えてほしいのは、「企業はなぜ存在するのか」あるいは従業員が「なぜ私はここで働くのか?」という「なぜ」を起点に考えを巡らせるような、コミュニケーションを行うことです。

パーパス・コミュニケーションとは

パーパス(Purpose)とは存在意義や目的のことを指します。存在意義や目的を基軸に他者と対話するコミュニケーションをパーパス・コミュニケーションといいます。

社会ではSDGsやESG、エシカル消費やソーシャルグッドな製品やサービスに注目が集まっています。そのため社会から企業や従業員がどう映るのかを考え、ありたい姿や存在意義を基軸にコミュニケーションを行う企業が増えています。特に社内コミュニケーションで企業の存在意義(企業のパーパス)だけでなく、従業員個人の存在意義(個人のパーパス)を重視することで、パーパス・コミュニケーションを強化し、最終的に従業員のエンゲージメント向上が期待できます。

パーパス・コミュニケーションは、まず社内報の改善から始めよう

社内コミュニケーションの全体像を理解した上で、パーパス・コミュニケーションを実施しましょう。パーパスコミュニケーションはすべてのタッチポイントで、一貫したメッセージを地道に訴求し続けることが大切です。短期間でエンゲージメントが高くなるような劇薬はありません。とはいえ、どこから手をつけていいかわからないと思います。私はまず改革するのであれば「社内報」をお勧めします。

なぜ社内報なのでしょうか?それは社内報は社内に点在する情報を収集し、編集し、発信するハブの役割を担っているためです。また、社内報の特性上、従業員を取材することも多いので、企業のパーパスだけでなく個人のパーパスの両方を発信し、蓄積することができることが強みとなります。

社内報の取り挙げるといいテーマについては別記事で解説したいと思います。

終わりに

本記事ではエンゲージメントを高める社内コミュニケーションは、共感志向で一貫したメッセージを発信し続ける必要性を解説しました。そして個人のパーパスを満たす双方向型のコミュニケーションを行うことの重要性を説きました。creativeog[クリオグ]では社内コミュニケーションについてさまざまな記事を執筆していますので、ほかの記事もぜひご覧ください。

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