デザイン思考は限界に達し、顧客課題の創出や不確実性の長期化が問題となっています。一方、アート思考はビジョンを持ち、行動しやすく、今後のイノベーションの鍵となります。本記事ではデザイン思考からアート思考への移行について解説します。
デザイン思考とは
デザイン思考は、ユーザー中心の問題解決アプローチとして、ここ数十年にわたり広く認知され、実践されてきました。このアプローチは、観察と共感から始まり、問題を定義し、アイデアを生成し、プロトタイプを作成し、テストを行うという一連のプロセスを通じて、ユーザーのニーズを満たす革新的なソリューションを生み出すことを目指しています。デザイン思考は、ユーザーの視点に立つことを重視し、問題解決の過程で創造性と実験を奨励する点で高く評価されてきました。
実際、AppleやIDEOなどの企業はデザイン思考を取り入れることで、数々の成功を収めています。Appleの製品開発プロセスでは、ユーザーエクスペリエンスを最優先に考え、細部にまでこだわったデザインが実現されています。IDEOは、多くの企業と協力し、デザイン思考を用いて新しい製品やサービスを生み出してきました。
アート思考とは
一方で、近年注目を集めているのがアート思考です。アート思考は、デザイン思考とは異なり、ユーザーのニーズや問題に対する解決策を見つけるのではなく、自らの内なるビジョンや価値観に基づいて新しい可能性やアイデアを創造するアプローチです。アート思考は、アーティストが新しい作品を生み出すプロセスに似ており、既存の枠にとらわれず、自らの直感や感性を信じて未知の領域に挑戦することを奨励します。
具体的なプロセスとしては、まず自らの内なるビジョンを明確にし、それを実現するための創造的なアプローチを探ります。この過程では、試行錯誤を繰り返しながら、新しいアイデアを模索し、それを実際に形にしていきます。例えば、あるアーティストが新しい作品を作る際に、直感的なインスピレーションをもとに素材や技法を選び、その都度試行錯誤を繰り返しながら作品を完成させるように、アート思考も創造的なプロセスを重視します。
なぜデザイン思考が終焉を迎えているのか
デザイン思考が広く普及した一方で、その限界も次第に明らかになってきました。以下に、デザイン思考が終焉を迎える要因をいくつか挙げます。
1. 顧客課題は見つけるのではなく、作り出すもの
デザイン思考は、ユーザーのニーズや問題を見つけ出し、それに対する解決策を提供することに重きを置いています。しかし、現代のビジネス環境では、ユーザー自身が自分のニーズを正確に理解していないことが多く、顧客課題を見つけるだけでは十分ではないという現実があります。むしろ、企業は自ら新しいニーズや課題を創り出し、それに応じた新しい価値を提供する必要があります。
2. 量的データがないため、当事者以外が疑心暗鬼で実際に行動しない
デザイン思考は、定性的なデータや観察に基づくことが多いため、その結果を量的に証明することが難しい場合があります。このため、関与する当事者以外の人々や経営陣が疑念を抱き、実際の行動に移すことに慎重になるケースが少なくありません。特に、大規模な組織では、具体的な数値データや明確な成果が求められることが多く、デザイン思考のアプローチはそのニーズに応えきれないことがあります。
3. 混沌とした時間が長く、企業経営者は耐えられない
デザイン思考のプロセスは、アイデアの生成やプロトタイプ作成、テストの繰り返しなど、一定の時間とリソースを必要とします。これにより、結果が出るまでの不確実性や混沌とした時間が長引くことがあり、企業経営者や意思決定者にとっては耐え難い状況となることがあります。特に、短期的な成果が求められるビジネス環境では、この点が大きな障害となることがあります。
デザイン思考の限界を露呈した、IDEO 東京オフィスの閉鎖
IDEOの東京オフィスの閉鎖は、デザイン思考の時代の変化を象徴しています。新たなビジネスモデルやテクノロジーの進歩により、デザイン思考だけのアプローチでコンサルティングを実施することの意義が小さくなり、より広範で柔軟なアプローチを求められている兆しかもしれません。IDEOの閉鎖は、デザインの未来に向けた新たなステージへの移行を意味していると言えるでしょう。
なぜ、アート思考が台頭していくのか
デザイン思考の限界が明らかになる一方で、アート思考の重要性が増しています。その理由を以下に挙げます。
自分たちの意思が加わり、「こうしたい」というビジョンがあるため、実際の行動に移しやすい
アート思考は、自らの内なるビジョンや価値観に基づいて行動するため、実際の行動に移しやすい特徴があります。自分たちの意思が強く反映されたビジョンがあることで、関与する全ての人々がそのビジョンに共感し、一丸となって行動することが可能となります。これにより、結果としてより強力なイノベーションが生まれることが期待されます。
例えば、ある企業がアート思考を取り入れた結果、新しい製品ラインを立ち上げることに成功し、そのビジョンが多くの消費者に共感を呼び、短期間で市場シェアを拡大した事例があります。このように、明確なビジョンがあることで、実際の行動に移しやすくなり、その結果として具体的な成果を上げることができるのです。
アート思考を実践するために必要なこと
アート思考を実践するためには、以下の要素が重要です。
1. ビジョンを持つ
アート思考の核となるのは、自らの内なるビジョンや価値観です。このビジョンが明確であることが、アート思考の実践において最も重要な要素となります。ビジョンは、関与する全ての人々を導く羅針盤となり、行動の指針となります。
2. 広報活動に注力する
自らのビジョンや価値観を広く共有し、共感を得るためには、効果的な広報活動が欠かせません。ビジョンを明確に伝えることで、内外のステークホルダーからの支持を得ることができ、実践の推進力となります。具体的な方法としては、ビジョンに基づいたストーリーテリングや、視覚的なコンテンツを活用した広報活動が考えられます。
3. 仲間を見つける
アート思考を実践するためには、同じビジョンを共有する仲間を見つけることが重要です。共感し、共に行動する仲間がいることで、困難な状況にも立ち向かうことができ、創造的なプロセスを進める力となります。仲間を見つけるためには、ネットワーキングイベントやコミュニティの参加、ソーシャルメディアを活用した情報発信が効果的です。
デザイン思考とアート思考の融合
デザイン思考とアート思考はそれぞれ異なる強みを持っていますが、両者を融合することで、より強力なイノベーションを生み出すことが可能です。例えば、デザイン思考のユーザー中心のアプローチと、アート思考の創造的なビジョンを組み合わせることで、ユーザーのニーズに応えながらも、新しい価値を提供することができます。ある企業がデザイン思考とアート思考を融合させた結果、ユーザーの期待を超える製品を開発し、市場で大きな成功を収めた事例もあります。
終わりに
デザイン思考の終焉とアート思考の台頭は、現代のビジネス環境における新しい課題とニーズに対応するための自然な進化と言えます。顧客課題を見つけるだけではなく、新しい価値を創り出す力を持つアート思考は、今後ますます重要な役割を果たすことでしょう。ビジョンを持ち、広報活動に注力し、仲間を見つけることで、アート思考を実践し、新たなイノベーションを生み出す力を高めていくことが求められます。また、デザイン思考とアート思考の融合によって、ユーザーのニーズに応えると同時に、新しい価値を創造することができる未来が期待されます。
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