
デザイナーの仕事に必ずあるのが自身がデザインした制作物の評価です。「かっこいいでしょ」「かわいいでしょ」ではクライアントは満足しませんし、そのデザインが採用されることは稀です。特にBtoB商材では、必ず客観的な評価とエビデンスが求められます。今回はUXUIデザインにおけるユーザービリティ評価について解説します。
ユーザビリティ評価とは
ユーザビリティ評価とは、製品やサービスが「ユーザーにとってどれだけ使いやすいか」「目的をスムーズに達成できるか」を測るためのプロセスです。UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)の品質を数値化・言語化することで、改善点を明確にし、プロダクトの完成度を高めていきます。
UXデザインにおいて、「見た目の美しさ」だけではなく、「実際に使いやすいかどうか」は極めて重要です。ユーザビリティ評価は、ユーザー目線に立った設計ができているかを確認するための不可欠なプロセスなのです。
なぜユーザビリティ評価が必要なのか
どれほど見た目が優れたUIであっても、ユーザーが迷ったり、思い通りに操作できなければ、製品としての価値は大きく損なわれます。特に次のような理由から、ユーザビリティ評価がデザインプロセスに組み込まれています。
ユーザー視点の確認
デザイナーや開発者の視点と、実際のユーザーの視点にはギャップがあります。そのズレを検出することで、設計上の思い込みやバイアスを排除できます。
開発・運用コストの削減
後工程での改修はコストが大きくなります。初期段階で課題を見つけて改善することで、手戻りを最小限に抑えられます。
製品の競争力強化
UXが優れていれば、ユーザー満足度が高まり、継続利用や口コミによる拡散につながります。ビジネス成果にも直結します。
ユーザビリティ評価の種類と目的
ユーザビリティ評価にはいくつかの方法があります。それぞれ得意とする観点や段階が異なるため、目的に応じて使い分けることが重要です。
ヒューリスティック評価(Heuristic Evaluation)
専門家が一定の評価基準(ヒューリスティクス)に基づいてUIをチェックする手法です。ヒューリスティック評価は大きなコストをかけずに、早い段階でUI上の問題点を洗い出すのに有効です。実際のユーザーを用意せずに評価できるため、初期の設計段階で重宝されます。
最も有名なのはNielsenの10原則(Nielsen’s 10 Usability Heuristics for User Interface Design)です。Nielsenの10原則は、ユーザビリティの評価指標として広く使われているヤコブ・ニールセン(Jakob Nielsen)によるガイドラインです。1994年に提唱されて以来、ヒューリスティック評価の基本となっています。
Nielsenの10原則(ユーザビリティヒューリスティック)
1. システム状態の可視化(Visibility of System Status)
ユーザーが現在何をしていて、システムがどう応答しているかを明示する。
例:ファイルアップロード中の進行バー、クリック後の読み込みアニメーションなど。
2. 実世界との一致(Match Between System and the Real World)
システムはユーザーの現実世界での経験や言葉遣いと一致しているべき。
例:「削除」ではなく「ゴミ箱に入れる」など、ユーザーが直感的に理解できる表現を使う。
3. ユーザーの主導権と自由(User Control and Freedom)
ユーザーが誤操作をしたときに、すぐに「やり直す」「取り消す」ことができるようにする。
例:「戻る」ボタン、「キャンセル」機能、確認ダイアログなど。
4. 一貫性と標準化(Consistency and Standards)
同じ操作や用語は、常に同じ意味・動作であるべき。業界標準や慣例に従うことも重要。
例:青い下線付きのテキストはリンクであるべき。アイコンの意味も一貫させる。
5. エラーの予防(Error Prevention)
エラーが起きないように設計段階から工夫する。エラーメッセージよりも、エラー自体を避けることが理想。
例:無効な日付を選べないようにカレンダーUIを使う。入力欄にリアルタイムバリデーションを入れる。
6. 記憶の負担を軽減(Recognition Rather Than Recall)
ユーザーが情報を覚えていなくても操作できるよう、選択肢やヒントを画面に表示する。
例:過去の検索履歴をサジェスト表示する、メニュー内にアイコンとラベルを併用する。
7. 柔軟性と効率性(Flexibility and Efficiency of Use)
初心者にも使いやすく、熟練者には効率的に使える設計にする。ショートカットやカスタマイズの提供など。
例:Ctrl+Cやスワイプ操作など、スキルの高いユーザー向けの時短機能。
8. 美的でミニマルなデザイン(Aesthetic and Minimalist Design)
必要な情報だけを表示し、余計な要素でユーザーを混乱させないようにする。
例:重要なCTA(Call To Action)以外のボタンは目立たせない、広告や装飾を控えめにする。
9. エラーの認識と修正(Help Users Recognize, Diagnose, and Recover from Errors)
エラーが発生したときに、ユーザーが原因を理解し、自分で解決できるようにする。
例:「入力に誤りがあります」ではなく、「パスワードが8文字未満です」と明示する。
10. ヘルプとドキュメント(Help and Documentation)
理想的にはヘルプが不要な設計が望ましいが、必要なときにすぐ参照できるヘルプは重要。
例:検索可能なFAQ、コンテキストに応じたヒント表示、チュートリアルの提供など。
なぜこの10原則が重要なのか?
- UI設計の「あるべき姿」を体系的に理解できる
- 実際のユーザビリティ評価で、問題点を漏れなくチェックできる
- チーム内の共通言語として使える
ヒューリスティック評価に使うときのコツ
- 複数の評価者で実施すると、見落としが減る
- 1つの原則に複数のUI問題が該当することもある
- 評価のあとは「優先度」や「影響度」で課題を整理する
アイトラッキング(Eye Tracking)
ユーザーが画面のどこを注視しているかを計測する手法です。専用のハードウェアやWebカメラを使って、視線の動きや注視時間を可視化します。視線の動きから、ユーザーの注意が集まりやすいUI要素、逆に見落とされやすい要素を発見することができます。情報設計やビジュアルヒエラルキーの改善に役立ちます。
認知的ウォークスルー(Cognitive Walkthrough)
評価者がユーザーになりきり、「このUIは初めて使う人にとって適切か?」という観点で一連のタスクをシミュレーションして評価します。特に新規ユーザーの導入体験(オンボーディング)を検証するのに有効です。「初めて見る画面で、ユーザーは目的を達成できるか?」という観点から課題を特定します。
アンケート調査(Questionnaire)
実際のユーザーに使用後の感想を定量・定性的にヒアリングする方法です。代表的な質問形式には、SUS(System Usability Scale)などがあります。主観的な満足度、操作性の印象、UIへの信頼感など、数値では表しにくい感覚的なフィードバックを集めるのに適しています。多人数からの意見収集に強みがあります。
ユーザビリティテスト(Usability Test)
ユーザーに実際に製品を操作してもらい、その行動や発言を観察・記録する手法です。定量的(所要時間、成功率など)・定性的(つまずきの箇所、表情)な分析が可能です。実運用に近い環境での「本当に使えるか?」を見極めます。UIの完成度だけでなく、ナビゲーション構造やマイクロインタラクションなど、細かい部分の改善に直結します。
AttrakDiff(アトラクディフ)
AttrakDiff(アトラクディフ)は、ドイツのUX研究者 マルク・ハッセルファーガー(Marc Hassenzahl)氏 によって開発された評価手法です。
彼は、ユーザー体験(UX)の質を「実用的な側面(Pragmatic Quality)」と「感情的・心理的な魅力(Hedonic Quality)」の2軸で捉えるアプローチを提唱しており、AttrakDiffはその理論に基づいて構築された評価ツールです。
AttrakDiffは主にヨーロッパのHCI(Human-Computer Interaction)やUX研究の文脈で発展してきましたが、現在では国際的にも広く用いられ、アカデミックな研究から実務での製品・サービス評価まで幅広く応用されています。単なる使いやすさだけでなく、「楽しさ」「美しさ」「感情的魅力」など、UX全体を定量的に評価できます。ブランドイメージや差別化要素の測定にも有効です。
終わりに
優れたデザインは、見た目の美しさだけでなく、ユーザーにとって自然で心地よい体験を提供します。そのためには、感覚に頼るのではなく、客観的なユーザビリティ評価が必要です。各手法には一長一短がありますが、目的やプロジェクトフェーズに応じて適切に選び、組み合わせることで、より良いUXが実現できます。ユーザビリティ評価は単なる“検査”ではなく、“共創のツール”として捉え、デザインの進化に活かしていきましょう。本記事では、ユーザビリティ評価について解説しました。creativeog[クリオグ]では、デザインに関する記事も多数執筆しています。他の記事もぜひご覧ください。